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佐野陽子ゼミナール同窓会は、慶応義塾大学商学部「佐野陽子研究会」所属の卒業生の交流の場として発足しました。

佐野先生からのメッセージ

2017年7月17日 
労働市場の流動化を図るには
労働移動が低調
 昔から、日本の労働者は安定志向が強く移動率が低いのが特徴でした。人がよく辞める企業は評判が悪く、またすぐ辞める人は辛抱が足りないと言われました。ところがマクロで労働力の配分を見ると、いかにも効率が悪い。日本経済の生産性の低さがよく指摘されますが、終身雇用も下請構造もなかなか変わりません。
労働移動が活発でない原因を考えると、答えは簡単。1つの原因は住宅の住み替えが簡単でないからではないでしょうか。なぜ職住近接が簡単に実現しないのでしょうか。その1つに、住宅市場の未発達があるからです。
持家政策の結末
 1950年ごろより始まった持家政策は、ローンによって労働者が住宅を所有することを容易にするというものでした。しかし時が経つと、家を持ったがゆえに通勤や転職がしばられるという影響も出てきました。
首都圏では労働時間が長くなる
 最近は労働時間が長いことがよく問題になります。しかし、労働時間の調査はあっても通勤時間の調査はあまりありません。大都市近辺では、通勤が痛勤と言われるほど、時間が長いだけでなく混雑も相当なものです。通勤時間が長いと人は、一旦家を出たからには、長く働かないとモトがとれないと思うでしょう。それゆえ、交通不便な郊外に家を持つ男性ほど、帰宅が遅くなるのです。昔、人は土地に縛られると言われましたが、今は、家に縛られるというわけです。
賃貸住宅市場が未発達
 人が経済活動や余暇活動をするのに、住宅が足かせになるのは好ましいことではありません。もちろん、家族の構成や教育や余暇の好みによって人さまざまです。しかし、流動的なライフスタイルを志向するときも、住まいが動きにくいというのは大きな足かせになります。単身赴任やセカンドハウスも解決策の1つでしょう。
しかし、日本ではいかにも住居の住み替えが不便です。というのは、賃貸住宅の市場が未発達であり、コストがかかるからです。大都市であるほど、もっと気軽に引っ越すことができないものでしょうか。
日本の土地神話
 土地神話と言っても、土地が値上がりするという幻影のことではありません。土地の私的所有にあこがれを持っているということです。国によっては、土地は神のもの、とか土地は共有財産だというところも多いです。私の住んでいる浅草などは、隣との境界線の10センチ幅も争います。挙句、街並みはペンシルビルの林立です。
不動産市場の効率化
 土地や建物など規制や政策はつきものとはいえ、法律はつくることはあっても廃案にするのは難しいものです。常に洗い直して効率を上げるよう、専門家を養成してもらいたいもの。部屋を借りるときの礼金や保証金などは、廃止してもらいたいものです。この間まで住宅難と言われていたのが、今は空き家・空き地の対策に頭を悩ませる時代。思ってもみなかったことがここでも起こっています。知の勝負どころなのでしょうか。
2017年5月5日
吉原遊郭 夢の跡
 私は60年来、浅草に住んでいます。勤め先を辞めてからは地域への関心が深くなりました。浅草はいま、スカイツリーを遠景にして、観光客で賑わっています。ただしこれは、浅草寺(628年開山)を中心にした台東区の南半分の区域で、人口も多く交通も便利です。ところが、浅草寺の裏にあたる台東区の北半分は、もっと落ち着いた地域です。かつては吉原とか山谷と呼ばれていましたが、いまは地番が変わって古い地名は無くなりました。しかし、名所、旧跡、歴史的遺構などがあり、探索すると興味がますます湧いてきます。この吉原・山谷のあたりは、「奥浅草」とも呼ばれています。
奥浅草の中で見たところ衆目を集めるのが、吉原遊郭跡地です。これは、1600年代半ばに造られた吉原遊郭の区画が今もなおくっきりと残っていて、グーグルの地図でもすぐわかるほどです。江戸時代や明治・大正・昭和時代の公娼制度はないものの、ソープランドはなお健在です。また、江戸文化の発祥の地として、歌舞伎、浮世絵、落語、ファッションなどを生み出したことも記憶に新しいところです。遊郭の遊女の教養の高さや立ち居振る舞いの優雅さなど、日本でいう「おもてなし」文化の原形ではないでしょうか。
何があっても驚かないご時世ですが、意外にもこの遊郭跡地の人気が高まっています。かつては不夜城とも言われる、1万人もの人たちが生活していた夢の園は浅草の奥で輝いていました。江戸時代には、歌舞伎・吉原・魚河岸で、1日3万両が動いていたと言われます。

いま、「投げ込み寺」とか、「首切り地蔵」とか、暗黒の側面もふくめてこの地域の歴史探訪が盛んです。出版される本の数々、つぎつぎに発行されるブログ、社寺探訪など。また、案外、若い女性に人気があるとも聞きます。奥浅草の地域では、ご多分にもれずいくつもの商店街がシャッター通り化しています。この吉原遊郭歴史ブームが突破口になれば、奥浅草地域の活性化も夢ではないでしょう。

バナースペース

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